【読書感想】 ひきこもりはなぜ「治る」のか? 精神分析的アプローチ 斎藤環著
ひきこもりの問題の第一人者といえる斎藤環氏による
精神分析についての解説書。
タイトルからすると、引きこもりで悩んでいる当事者や
その家族のためのアドバイスブックと思ってしまうかもしれないが、
そのような本ではない。
これはどちらかというと、精神分析に興味がある人向けの本だ。
ひきこもりの改善ノウハウがかいてある本だと思って期待すると、
やや違うのでがっかりするとおもう。
ここで取り上げられているのは、ラカン、コフート、クライン、ビオンといった
精神分析の理論家の考え方を、一般人にもわかりやすくかみ砕いて
説明している。
精神分析の本はどうしてもそうだが、
この本も性的な表現がたくさん出てくるので、
精神分析の独特の性的表現に慣れてないと、ちょっと拒否感があるかもしれない。
しかし、文章は平易なものなので、専門的で読めないといったほどでもない。
この本のなかで解説されているラカンの「欲望は他者の欲望である」という
ところの説明は、かなり素晴らしいと思った。まさしくそうだと思う。
例えば、ブランド品を求める気持ちも、骨董の「お宝」をほしがる気持ちも「それをみんな(他人)が欲しがっている」というところからきています。
また、興味深いと思うのは、ビオンの集団における意識と無意識の考え方だ。
ビオンは集団というものについて、それ自体が一つの実体を持った存在であり、単なる個々のメンバーの心理の集合体ではないことをまず強調します。集団というのは一つの心をもっている。個人の心理を重ねていったから集団になるわけではなくて、集団には集団独特のものの考え方があって、それを理解することは集団のなかでのダイナミクスを知るうえでは、大変重要であるとしているのです。
個人的に、「この集団というのは一つの心をもっている。」というのは
なんとなく理解できる気がする。
この辺りは、今後深く掘り下げておきたいテーマだと思う。
また、この本では、この先生の得意分野でもあるひきこもりの
対処方法について 記載もある。
しかし、基本的な考え方の提示になっており、
あまり実践的な内容ではない。
おそらくこれをよんだからといって、さっそく明日から実行できるなら、
そもそもひきこもりなどの現象は発生しなかったと思うので、
実際に対応するには、経験のある専門家の指導を受けるべきだと思う。
この本の読者の想定は、おそらく当事者及び家族ではなく、
援助者なのだと思う。