放送大学で勉強中

放送大学で頑張って勉強する日記です。

心理臨床とイメージ 第6回 MSSM法

心理臨床とイメージではすでになんどか登場している山中康裕先生考案の

MSSM法の回。

 

Mutual  Scribble story Making Methodの略がMSSM法となる。

日本語に訳すと「交互ぐるぐる描き投影・物語統合法」となるのだが、

日本語に訳すと長い。

 

MSSM法は、1枚の画用紙に、まず手書きで枠線を引く。

クライアントに依頼して、その枠線を漫画のコマ割のように、

6コマか8コマ程度に線を引いてコマを作ってもらう。

(クライアントに拒否された場合は、セラピスト側がコマ割りをする。)

 

そのうえで、まずじゃんけんをして、勝っても負けても、

セラピスト側が、「勝ったから私からね」または、

「負けたから私からね。」と言って自分からこのコマ内に、

適当なぐるぐるを描く。

 

そして、クライアントにこのぐるぐる描きからなにかにみえるものを見つけて、

色鉛筆やクレヨンなどで、そのぐるぐる曲線を使って絵をかいてもらう。

 

今度は、クライアントが次のコマに、適当なぐるぐるを書いてもらい、

セラピスト側が、そのぐるぐる曲線を使って、同様に絵を描く。

 

というのを、1コマ残すまで交代で続けて、

最後に残ったコマに今まで書いた絵を使って

クライアントに物語をつくってもらい、

その最後の1コマ内に話を書く。

 

以上が実際の作業となる。

 

この方法の優れている点は、

非常に遊びの要素が強く、クライアントに喜ばれる方法であること、

道具の用意が簡単で費用が掛からないことがあげられる。

 

このMSSM法の紹介の後、実際に考案者の山中康裕先生が、

この方法ができた経緯を話している。

 

もともとはナウンバーグの考案したスクリブルという方法と

ウィニコットの考案したスクイッグルという方法を中井久夫氏に

紹介されたので、実際の診療でスクイッグルを導入したのだが、

当時、山中康裕先生は、毎日40人ぐらい診療しており、

そのうちの数名にこのスクイッグルをすると、

毎日何十枚もの絵を描いた画用紙がたまり、

整理整頓が苦手な山中康裕先生は、どれがどの患者のなのか、

わからなくなるので、それなら1枚にしてしまおうというのが、

そもそもの発案だったらしい。

 

そのうち、ある大人の患者だったそうだが、

描いている途中に「あっ、間違った。見ないで」といって、

絵を手で隠してしまった。

そこで、山中康裕先生は、部屋にあったカレンダーの一部を切り取って、

その患者の間違ったコマにカレンダーの絵をはったところ、

その患者が「これがいい」といったので、

「MSSM+C法」(Mutual  Scribble story Making with Collage)が、

うまれたとのこと。

 

MSSM法とは、理論が先にあって計算されて考案されたわけではなく、

臨床の現場で、クライアントとのやり取りの中で自然に生まれたもので、

したがって、方法にこだわるものではなく、

状況によって柔軟に変化させて良いものだとしている。

 

たとえば、コマ割りは、原則6コマから8コマとなっているが、

そこまでエネルギーのないクライアントの場合は、

もっとコマ数を少なくしてもよいし、

最後の物語の作成もクライアントが「できない」といわれれば、

セラピスト側が物語を作ってもよい。

 

また、小野けい子先生が、このMSSM法を発展させて考案したのが、

色彩誘発MSSM法で、

通常MSSM法は、黒いサインペンでぐるぐる描きをするのだが、

小野けい子先生は、クライアントがサインペンで、

鋭くがちがちとした線を描くのを見て、

もっと柔らかい表現がしたくなったので、

あえてピンクのクレヨンで丸く柔らかい曲線を描いたことで、

クライアント側もこの線を見て羊を描いてくれたことをきっかけとして、

作られた方法であるという。

 

クライアントの状況によっては、黒いサインペンを使ったほうがよいこともあるし、

よりメッセージ性の強い、色彩を用いたほうがよいこともあるとのこと。

 

MSSM法は、何らかの診断やテストとして行われるのではなく、

セラピストと、クライアントのコミニュケーションツールとしての

側面が強く、クライアントの抱える問題そのものに焦点を当てずに、

あえて、いったんそこから距離を置くことによって、

問題解決の糸口をつくるというような意味があると思われる。

 

そのため適応範囲が広くこのような人には禁忌ということはないが、

山中康裕先生によると、日常でも混乱しているような患者には、

適さないため、その場合はある程度症状がおちついてから、

導入したほうがいいとのこと。

 

ここからは私の感想だが、

このMSSM法の優れている点は、

クライアント側が一方的に、セラピストから絵を描くことを

要求されるわけではなく、お互いが絵を交互に描くという点だと思う。

 

カウンセリングをする際には、かならず費用をとることが、

セラピストとクライアントの関係を対等に保つために、

重要であり、それ自身が治療的な意味があるとされるが、

この、交代で絵を描くということ自体がやはり、

セラピストとクライアントの関係を対等にする意味が

あるとおもう。

 

カウンセリングに来るということは、

心の中に何らかの問題を抱えて弱くなっているということであり、

その心が弱くなっている状態のクライアントと、

心のプロであるカウンセラーが、一対一で対峙したとき、

対等になることはむずかしい。

そこには、依存や支配が生まれやすい側面があるため、

カウンセリングがかえって逆効果になることだってある。

 

MSSM法は、本来は対等になることが困難な

クライアントとセラピストを、対等な関係と思わせる、

演出として意味があるのではないかと思う。