放送大学で勉強中

放送大学で頑張って勉強する日記です。

【読書感想】 ちーちゃんはちょっと足りない 阿部 共実著

この本は、絶対に体調が悪いときや、最近よくないことにあって

落ち込み気味などの時に読んではならない。

なぜなら、かなりネガティブな感情をむき出しに描いている作品だから。

表紙のポップな感じの明るいデザインとはまるで対照的な作品だ。

 

ちーちゃんは、中学生になるのだが、九九はできるが割り算はできない女の子。

団地に住んでおり、言動も子供っぽく、体格も小さいが、

友達と元気に学校生活を送っている。

友達にはややバカにされつつも、それでも愛されている。

 

ちーちゃんは、勉強ができないのだが、

そもそも本人がこどもっぽいので、

あまり気にしていない。

毎日が楽しければよいという感じ。

 

しかし、ゲームが買えない、お小遣いがすぐなくなるなどの

なやみがある。

 

そんななかで、クラスメイトのお金3000円がなくなるという事件が発生する。

クラスメイトはちーちゃんを疑うのだが、

ちーちゃんの友人の旭は、「そんなことは絶対しねえよ」といって、

ちーちゃんをかばう。

 

しかし、その3000円を盗ったのはちーちゃんだった。

 

 

この作品の素晴らしいところは、

女子中学生のリアルな感情をまことに見事に表現しているところだ。

その感情とは、嫉妬、劣等感、自己嫌悪、猜疑心、優越感などだ。

 

大人から見れば、本当にあきれるほど悩みの塊なのだ。

 

この話は、大人から見れば、たわいのない日常のたわいのない話に過ぎない。

しかし、中学生にとっては心が張り裂けて

死にそうになるほど深刻でつらい話なのだ。

 

この作品のキーワードは「ちょっと足りない」という言葉だ。

この「ちょっと足りない」というのは「ない」という意味ではない。

「ある」のだが、「ちょっと足りない」のだ。

この微妙な表現こそ、この作品の作者のすごさを感じさせる。

 

「ない」ならともかく、

「ある」けど「ちょっと足りない」ということの残酷さを、

見事に表現している。

 

この作品が、ハッピーエンドなのかどうかについては、

いろいろな意見があるようだ。

この作者はこの作品の結末をはっきりとは書いてない。

あらゆる解釈が可能であろう。

しかし、わたしはこれはハッピーエンドの話と理解している。

 

この作品の1話のラストのP.24の3人の背景にある駐車場には「空車庫あり」とある。

そしてこの作品のラストの2人の背景にある同じ駐車場にはそれがない。

駐車場の空きはなくなっているのだ。

 

この作品は背景が丁寧に計算されて表現されている。

作者の丁寧な作風に感動しつつ、

読者によって、好き嫌いがわかれる話だろうなとは思う。